院内新聞「多歯言」<第19号>

院内新聞「多歯言」<第19号>

発行:医療法人社団慈篤会 平野歯科医院
発刊日:2006年6月4日

患者さんと共に歩む

平野歯科三世・父Yを昨年10月4日に亡くしましてから、早くも8ケ月たちました。その間、多くの患者様から厚情や交誼、また激励のお言葉を頂き感謝しております。

亡き三世もさぞかし慰められていることと存じます。また同時に、私自身、生前以上に三世の偉大さと平野歯科医院の126年の歴史を痛感している次第です。一世、二世、三世の院長は、保ち続けた診療行為から生まれた情意を大切に、町医者として、人として地域の人々と生活を分かち合ってきました。 「人間そのものを大切にする根本的な人生観、生活状況を守り、しかもその支えとして歯科医療はなくてはならないもの」と考えて来ました。とくに、三世の果たすべき役割は、「自制と責任」が存在する予防歯科を中心とした医療であったと感じられます。

近年、医療技術は日々進歩しています。そのことから、インプラント、再生医療などといった先進医療がもてはやされ、学会や誌上に報告されています。私自身も数多くの研修会に参加、発表などをし、新しい治療方法の取得に研鑽して来ました。しかし治療方法や歯科医師自身の研修はさることながら、それよりも大切なことを三世から学びました。それは、患者さんの現状をありのままに受け止め、温存しつつ、コントロールし、それを何十年に渡って機能させることができるという考え方についてです。実際、50年以上リコールに応じて頂いた患者さんも存在し、口腔の不安を解決し安らぎのある安全な診療を実践していました。リコールシステムは人と人との繋がりを大切にしていたからこそ生み出されたものと考えています。振り返って三世の診療を思い出しますと、治療時間より、歯の治療以外の話をしている時間のほうが長かったように思います。歯科医師は技術に走りがちです。また、新しい技術を学ぶことは歯科医師にとって大切なことです。しかし、歯科医師として技術はできてあたりまえのことであり、学問以外に歯科医師としてもっと大切なことがあることに気付きました。

これからは、平野歯科の四世院長として「自制」を感じながら、今まで培って来た信頼に答えるため、より確実で幅の広い歯科治療の研鑽をすると同時に、町医者としての立場を考え、思いやりのある診療「人間有在な診療」を実践していきたいと考えています。そして 患者さんと共に人生を歩めたら幸せと感じております。

これからも、スタッフー同、三世からの意向を引き継ぎ、ひとつになって良質の予防歯科医療をより多くの患者さんに提供できるように切磋琢磨します。これからもよろしく御願いします。

四世院長 H.J

大衆のための歯科医療

早いもので、先代院長が旅立たれて8ケ月が過ぎようとしています。いまだ慰問の患者さんが絶えず、先代院長の人徳に感動しています。振り返れば、先代院長から昼休みによくお話を聞くことがありました。

戦時中の話、子供のころの話、平塚市の歴史について、歯科の話など、色々なことを話してくださいました。その中で、最も私にとって心に残り、かつ私のこれからの生き方に大きく影響した言葉があります。それは、「大衆のための歯科医療」の考え方についてでした。私自身、東京でごく一部の患者さんのために特別な医療を行ってきました。また、それを行うことに何の めらいも、疑いも持っていませんでした。むしろ、誇りに思っていた時期もありました。しかし、先代院長からお話をうかがって、今までの自分の考えが浅いものであったと後悔しました。
すなわち、「医療」とは、「病気」だけを治すのではなく、 「心」も治さなければならず、しかもより多くの人のためのものでなければならないことに気づきました。しかも、この「大衆のための歯科医療」という考え方が、平野歯科医院130年の歴代院長に受け継がれていることに深い感銘を受け、私も微力ながらこの継承のお手伝いができればと考えています。また、4代目院長とは古くから同じ勉強会で共に研摸してきました。私の 役目は先代院長の考え方を引き継ぐ者として、4代目院長の傍らで力添えすることであると思っています。

私は20数年、噛み合わせの勉強をしてきました。また義歯については最後の弟子として先代院長の傍らで勉強させていただきました。特に、得意分野である顎関節症や義歯で困ったことがありましたら、気軽に聞いていただければ現在わかっている範囲でお答えできると 思います。

副院長 K.N

プラークの付き方、付きやすい部位

プラーク〈歯垢〉とは歯の表面に付着する白色や黄褐色の軟らかい垢で、歯の表面に付着した細菌、細菌の産出物、唾液の成分、・食べカスなどからなっています。

プラークの作られる過程は、まず歯の表面に唾液から作られる薄い膜ができ、その上に口の中の細菌が付着して始まります。 付着した細菌はそこで増殖し、成長すると歯面にも強固に付着するようになります。やがて歯面を広く、そして厚く覆うよう になります。これがプラークです。
本来、口の中には唾液や食べ物の流れがあり、この流れは自然にプラークや汚れなどを洗い流す作用を持ちます。
しかし、歯の表面の溝・歯と歯の間・歯と歯肉の境目・歯肉の中では、この流れが届かずプラークが溜まりやすいため、注意して掃除することが必要です。プラークはうがいだけではビクともしませんので、歯ブラシ・歯間ブラシ・デンタルフロスなどの清掃用具が必要です。主にプラークが付きやすい部位は、歯ブラシの届きにくい上の奥歯の外側と、下の前歯の舌側の面です。
また入れ歯の歯の部分・ バネの部分・裏の面・かぶせ物の歯の根元・矯正装置の周り・作り物の歯などにもプラークが多く溜まりやすいです。 これらのことを注意しながら毎日、歯磨きをしていきましょう。

DH A.M

歯磨き粉の成分

皆さんが普段使っている歯磨き粉には、どんな成分が含まれているのかご存知でしょうか。
歯磨き粉の中にはむし歯や口臭を予防するもの、歯周病菌を抑えるものなど、様々な薬用成分が配合されています。その中に 、フッ素配合と書かれているものをよく目にすると思いますが、その成分は主に、フッ化ナトリウムやモノフルオロリン酸ナトリウムなどです。これは歯の質を強化したり、再石灰化を促進させる働きがあります。また、フッ化第一スズというものもありますが、これは上記の働きに虫歯菌の増殖を抑える作用が含まれたもので、むし歯になりやすい方にはこちらが配合されたタイプをお勧めします。他には歯周病菌を殺菌し、歯周病を予防する塩酸クロルヘキシジンというものがあります。歯周病の傾向がある方は、この成分が含まれているものを使用してみてはいかがでしょうか。

薬用成分以外には、歯垢や着色汚れを落とす研磨剤や、お口全体に歯磨き粉を拡散させ、汚れを洗浄する発泡剤なども含まれています。

歯磨き粉をたっぷり付ける方もいると思いますが、たくさん泡が立つと磨きにくく、汚れが取りきれていないのに口の中が爽快になり、満足してしまったりするので、グリンピース位の大きさを目安に使用しましょう。

DA

楔状欠損(WSD)

楔(くさび)状欠損は、歯と歯肉との境目によくみられ、文字通り楔を打ち込んだように鋭く欠けているのが特徴です。その部分に歯ブラシの毛先が当たったり、冷たい水を飲んだりすると、キーンとしみることがありますが、皆さんもこのような経験があるのではないでしょうか?

模状欠損は、歯ブラシの間違った使い方(特に横磨きでゴシゴシと強く磨いたりすること)で少しずつ歯が削られて起こると長い間考えられてきました。しかし、口の中で歯ブラシの影響を受けない所や、歯ブラシを使う事のなかった古代人や動物の歯にも存在するという報告があり、歯ブラシの間違った使い方だけで起こるという考え方では説明できないところもあります。最近では、噛む力(咬合力)も関係していることが報告されています。それによると、噛む力が歯と歯肉との境目に集中しその部分が破壊されて生じるようです。

楔状欠損は必ずしも病気ではありませんが進んでしまうと知覚過敏を伴い、場合によってはむし歯に進行するも時あります。予防するには、歯磨き剤をたっぷり使うことを止め、そして正しいブラッシング法を身に付けなければなりません。歯ぎしりや噛み合わせが悪く歯に余計な力が加わっている場合は、できるだけその余分な力を取り除くようにします。

治療方法としては、削れた部分にコンポジットレジンという白い詰め物を貼り付けて修復します。症状が軽いうちにむし歯や知覚過敏になってしまうのを食い止めることが重要です。

楔状欠損(WSD)
Dr Y.N

舌小帯

皆さんは、「舌小帯(ぜつしょうたい)」という言葉をご存知ですか?
舌小帯とは、舌とその下の粘膜を繋いでいるスジのことで、舌をくるっと上にあげると見えます。舌小帯は、舌の運動を制限し、その位置を固定する働きを持つと言われています 。

舌小帯の異常には、舌小帯が極端に短いために舌の先が上の前歯の裏や上あごまで届かなかったり、舌小帯が舌の先の方に付 着していて、舌を前に伸ばした時に舌の先がハート型にくぽんでしまう付着異常(総称して舌小帯萎縮症、舌小帯短縮症、舌強直症などと言われます)などがあります。この場合、舌の動きが制限されて乳児期では哺乳・嚇下障害が、また幼児期以降では発音障害(サ行・タ行・ラ行の発音が困難)が起きます。

乳児期(1歳半くらいまで)に舌小帯の異常がみられても、成長に伴い正常になると言われていますが、3歳以上になっても異常がみられる場合は、

1、舌小帯を伸ばすトレーニング
2、舌小帯を切除する処置+舌小帯を伸ばすトレーニング

主にこの2つの方法によって対処する必要があります。軽度ならば1、重度ならば2、というようになります。

お子様の舌小帯のことでご心配なことがありましたらお気軽にご相談ください。きっとお子様に合った対処法が見付かると思います。

DH H.M

あとがき

「多歯言」第十九号はいかがでしたでしょうか?早いものでこの新聞が創刊されてから十年が経ちました。これまで様々な記事を掲載してまいりましたが、皆様のお役に立てる記事はありましたでしょうか。これからも様々な情報を提供させていただ きたいと思います。皆さん、新しいホームページをご存知ですか。診療理念をはじめ、様々な症例を紹介しています。より平野歯科の臨床を理解戴けると思いますので是非ご覧ください。
(編集委員)

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